君と歩く未知
アタシたちの夏
 アタシたち五人はすっごく仲良くなった。
特にアタシは全くタイプの違う美和ちゃんと親友になった。
…親友っていう甘ったるい言葉なんて今までアタシには関係なかったのに。
どうしてここまで自分が変われるのか、自分でもびっくりした。
 夏休みの午前中は美和ちゃん、直紀くん、竜平くんの三人は補習、カズくんとアタシは美術室ってバラバラになっちゃうから寂しいなって思ってたら、案外そうでもなかった。
なぜかというと、三人は補習が終わったら必ず美術室に遊びに来てくれるから。
だから、午後からはみんなで遊ばなくっちゃいけない。
カズくんとアタシは午前中に忙しく絵を描くようになった。

 その日も朝早くからカズくんとアタシは美術室で絵を描いていた。
大きな合作用の画面は次々に埋まってゆく。
自分で言うのもなんだけど、すっごく綺麗な海の中にいるような気分になれる、素敵な絵。
群青色の深海から、海面の方を見上げているみたい。
水面が太陽の光でキラキラ光って見える。
小さな泡がリアルで、手に掴めるような気さえしてくる。
この泡ってカズくんが描いたんだよね、上手だな…
アタシがぼんやり絵を見上げて自画自賛していると、カズくんが後ろから小突いた。
「なにボケ―っとしてんだよ」
アタシは照れたように笑って
「なんでもないっ!」
と言って慌てて泡を描く小さな筆を手にして画面に小さな泡を描こうとした。
でも、全然描けない、なんで!?
「あれっ!?…あ、絵の具付けてなかった」
カズくんはそんなアタシを見てクスクス笑った。
「なんでそんなに慌てるわけ?さては、朝からボケ―っとヤラシイこと考えてたんか?」
アタシはカズくんの方に振り返って顔を赤くして言った。
「考えてないっ!ヤラシイこと考えてるのはカズくんじゃん!」
カズくんは笑って
「バレたか…」
と言った。
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