君と歩く未知
 アタシはその日家に帰ってお母さんに花火大会のことを話した。
「カズくんとお泊り」なんて言うとお母さんは許してくれるわけない。
だからアタシは一生懸命悩んで悩んでこう言った。
「あのねっ、夏休みに美和ちゃんと一緒に花火大会行ってもいい?それでね、夜遅くなってフラフラ家に帰ってくるのって怖いじゃん、だから会場の近くの安ホテルに泊まろうと思うんだけど…ダメかなぁ?」
お母さんはニヤニヤ笑って、アタシを見た。
アタシはドキドキしながらお母さんの答えを待った。
でも、お母さんは全然口を開いてくれない。
そんな重苦しい空気に耐えられなくなってアタシは言った。
「ね、ねぇ、何?ニヤニヤ笑って」
お母さんは洗濯物をたたんでいた手をいったん止めてアタシの目を見た。
「弥生、今の話に嘘はないでしょうね?」
いたずらっ子みたいにアタシの顔を覗き込む。
アタシは思わず本当のことを言いそうになった。
「…えと、多少脚色はある。ホントは美和ちゃんと、その彼氏の直紀くんと…」
アタシの言葉をさえぎってお母さんは言った。
「あとは弥生の彼氏ね。…えっと、カズくんっていうんだっけ?」
お母さんはアタシの言おうとしたことをズバリと当てて、また洗濯物をたたみ始めた。
お母さんってすごいな。
なんでアタシの言おうとしたことがわかるんだろ?
やっぱり、親子なんだな…
アタシは素直に、
「そのとおりです」
と言って頭を下げた。
「で、でもねっ!美和ちゃんとアタシが同じ部屋に寝るんだ!決して…絶対に…カップルごとに寝るなんてことはないからっ!…ねぇ、お母さん、お願いっ!」
アタシの言い訳にお母さんはクスクス笑って言った。
「弥生はどうしてもカズくんのことが好きなのね。…仕方ないな、行ってもいいよ。でもね、決して後悔するようなことはしないで。弥生もカズくんもこれからの人生があるんだから。弥生だって、これからたくさん恋をして結婚するでしょ?だから、よく考えて行動しなきゃダメよ。ふざけたことしてたら、お母さん、カズくんにもお説教しちゃうからね!」

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