君と歩く未知
 「…こんな風にして欲しかったんだろ?」
アタシの心臓はドキドキと高鳴って今にもカズくんに伝わってしまいそうだ。
アタシは何も言い返せなかった。
「こんな風に抱き締めたりして欲しかったんだろ?」
アタシの顔は真っ赤になっていった。
「…違っ」
「違わない」
カズくんにそう言い切られてアタシは否定さえできない。
そのままの状態でカズくんは言った。
「さっきの弥生、すごくテンパってて可愛かった…」
アタシは、あの時のことをすぐに思い出した。
ホテルとか、ラブホとか、ホタテとか…あのメチャクチャなアタシ…
すぐに恥ずかしさが込み上げてきて頬が熱くなる。
「ホテルとホタテを言い間違えちゃうし、ラブホとかなんのためらいもなく言うし…」
思い出したのかカズくんはクスクス笑った。
「ヤダ…早く忘れなよ…」
「忘れらんないよ、きっと一生」
アタシも恥ずかしさと自分のおかしさで笑えてきた。
カズくんは一層強くアタシを抱きしめて言った。
「…でも、嬉しかった。弥生が『カズくんと一緒ならどこでもいい』って言ってくれて。…花火、楽しみだね」
アタシは小さく頷いて、カズくんの背中にぎゅっと腕を回した。

 それからアタシたちはキスをしたっけ。
今までにない、激しいキスだったのをよく覚えてる。
遠い意識の中でうっすらと綺麗な海が見えたんだ。
それはアタシとカズくんが描いた、海の絵。
綺麗だった…。
だけど、そんな絵でさえ今のアタシの傍にはないの。
今のアタシとカズくんを繋ぎとめるものは何ひとつない。
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