君と歩く未知
 「きゃー、すっごく人が多いねー!みんな花火見に行くのかなぁ?」
アタシは混んでいる電車内を泳ぐようにしてみんなの元に辿り着いた。
「そーじゃない?浴衣着てる人多いし。アタシたちはホテルん中で花火見るから浴衣なんていらないねー!超楽っ」
美和ちゃんはそう言ってアタシが座れるくらいのスペースを自分のお尻を動かして作ってくれた。
アタシは「ありがと」と言ってそこに座った。
「ねぇ、こんなに混んでるのにどーやって座席キープしたの?」
アタシはみんなに聞いた。
すると美和ちゃんがケラケラ笑いながら教えてくれた。
「余裕余裕♪直紀と和哉にダッシュで取らせたんだー!」
するとカズくんが疲れた声で言った。
「何が余裕だよ!?オレら、すっごく大変だったんですけどーっ!」
それに便乗して直紀くんも言った。
「ホント、死ぬかと思ったし。オヤジの臭い脇の下を通り、床を這うようにしてこの席までたどり着いたんだってー!」
アタシはそれを聞いて美和ちゃんと一緒に笑った。
「大げさなこと言わないっ!」
美和ちゃんはそう言いながら直紀くんの頭を小突いた。
「美和は人使いが荒いんだよ!」
直紀くんは笑ってそう言い返す。
…なんだか、いつもより温かい空気がそこには流れていた。
ほのぼのした、ゆっくりとした、そんな空気。
アタシはそっとカズくんを見た。
アタシの視線に気が付いてカズくんが顔を上げ、アタシと目が合った。
ニッコリ笑ったカズくんはアタシの耳元で言った。
「手でも繋ぎますか?」
アタシはニッコリ笑って
「お願いします」
と言った。
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