君と歩く未知
 全部を話し終えると、竜平くんは笑った。
「なにそれ!?そんなことで怒ってたわけ?別に普通だよ、普通」
普通?
一体何が?
あのカズくんの冷たさのどこが普通なの?
アタシが首をかしげていると、竜平くんは優しく言った。
「どのカップルにだって、隠しごとの一つや二つあるよ。相手の全部を知ろうと思ったって、相手はそれを嫌がるかもしれない。逆に、自分にだって相手に知られたくないことがあるかも知れないだろ?そんな隠しごとさえ全部含めて、相手を好きになってやれば良いんだよ。な?」
アタシはしばらく黙り込んでしまった。
竜平くんの言うことは正しい。
でも…どうしてそんな簡単な…単純なことにアタシは気が付けなかったんだろう?
そんな自分が情けなくって仕方ない。
「…そっか。そーだよね。よしっ!明日、カズくんに『昨日はムスッとしててごめんね』って謝らなきゃ!」
アタシは意気込んでそう言った。
すると、竜平くんはアタシの頭をくしゃくしゃっと混ぜた。
「よし!…なんか食って帰るか?オレ腹減ったし」
アタシは両手を挙げて喜んだ。
「やったー!じゃあ、ケーキ!」
「なにそれ!?ケーキなんかじゃ食べた気しねーよ」
「じゃあ、クレープ!」
「あ、ここのオムライス上手いんだよな」
「ちょっと!話聞いてるー?」
そんな風に笑いながらアタシと竜平くんはお店に入って行った。
 …そんな光景をアタシたちの後ろでじっと見ていた人がいる。
それは、アタシを追いかけて来たカズくんだった。
カズくんの存在に気付いていないアタシ…
その日アタシはカズくんの心に大きな傷を付けてしまった。
< 89 / 202 >

この作品をシェア

pagetop