君と歩く未知
 午後五時三十分、アタシたちの小さな美術館は閉館した。
明日もう一日文化祭で開館するけど、もっとお客さんが来てくれると良いな。
「うっわー!今日一日でこんなに集まったぞ!」
カズくんはみんなから出してもらった入場料を入れた袋を覗き込みながら言った。
「ホントだ、すごいねー!百円でいっぱい!」
アタシも歓喜の声を上げる。
「よし、これでこれからも美術部は活動ができるな!弥生、また合作しような!」
カズくんはキラキラした目でアタシに言う。
「うん!ってゆーか、また描いて欲しいなー。アタシの絵」
アタシがからかうように笑いながらそう言うと、カズくんは照れて苦笑いをした。
 そして、アタシたちは夕焼けの中、ご飯を食べて帰ることにした。
久しぶりにカズくんと一緒に食べるご飯、ちょっとだけ緊張しちゃうよ。
ご飯を食べ終わり、二人で駅まで歩く…
特に言葉は交わさなかったけど、繋いだ手で全てがわかったような気がした。
アタシとカズくんの家は正反対の方向。
だから、一緒に電車に乗って帰ることはできないの。
ほんのちょっと寂しいよ。
明日がこんなに待ち遠しいなんて…
「じゃあな、弥生。気を付けて帰れよ」
カズくんはそう言って、改札口の前まで一緒に来てくれた。
アタシはなんだかいつもより寂しくて、なかなか繋いだ手を離せない。
カズくんが笑いながら首をかしげているから、アタシは思い切ってカズくんの手にキスをプレゼントして手を離した。
カズくんは突然のことに驚き、目を丸くしている。
「じゃあ、また明日ねっ!」
アタシは笑顔で元気良く、そう言って大きく手を振った。
カズくんも少し遅れて嬉しそうに微笑み、手を振った。

 でも、これで最後だった。
アタシがこんな風に心の底からカズくんの前で笑ったのは。
あの事件さえなければ…今でも時々思い出して苦しくなる。
アタシの体と、カズくんの心に、深い傷を付けた、あの事件。
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