その輝きに口づけを
1 光の事情

プロローグ1 出会い(水流視点)

都会過ぎず田舎でもない地方都市。その象徴の一つとしてそびえるまばゆいタワーのそばに、かつて一軒のイタリアンレストランがあった。
 大学に近いこともあり、結構本格的なレストランだったにもかかわらず、接客を行うメンバーの半数以上が大学生で、ぼくもその一人だった。
彼女との、そこでの出会いを、ぼくは正直なところうまく思いだせない。
 同じ大学の2つ上の先輩で、2人揃ってアルバイトとして雇われた身で、それがぼくたちの初対面であることは間違いないのだけれど。
 すでに進路を決め、昼のシフトが中心だった彼女――青木光と、当時入学したてで夜のシフト中心だったぼくとでは、顔を合わせる機会なんて週に一回、昼と夜とのシフトが重なる1時間程度のことだった。
 それでも覚えていたということは、やはり彼女との会話が心地よかったからだろうと思う。
 当時の彼女は黒髪を束ねただけの髪に、化粧っけのないまるっとした顔でいつも笑ってて……美人とは言い難い、そしてだからこそ緊張せずに話せる女性だった。よく見たら整った顔立ちや、気にとめると見事なグラマラス体型だったにもかかわらず、不思議と色気のない人だった。あれ程の外見に恵まれていながらなぜ女性として意識されずにいたのだろう。ぼくのそんな疑問に対し、武道中心の生活を送っていたからと本人は後に笑って言っていたが、ぼくにはそれが原因だなどと、今だってこれっぽっちも信じていない。

 なんにせよ彼女は『年を重ねるごとに色気と美しさを増す』、ぼくの知る数少ない典型例だ。
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