ポーカーフェイス

 悠翔は少しだけ口角を上げて言った。


「おう。…殺せ」


 自分にこんな風に自分にぶつかって来る弟は、初めてで少し嬉しかった。


「ぜってぇだぞ」

「おう」

 
 太陽が「おはよう」と乙津兄弟に声を掛けようとしたが、雰囲気が雰囲気なだけに、空気を呼んだ太陽は、雲に隠れその場をやり過ごした。




 泣き止んだ尋翔の目は、赤く腫れ上がっていた。

 むっすりと不服そうな顔をしたままの尋翔と、反対に清々しい顔の悠翔は2人仲良く肩を並べて、家路に着いた。

 2人の間を、ヒョォと風が通り過ぎた。

 それに肌寒さを感じたのか、悠翔はポケットに手を突っ込んだ。


「ん?」


 小さく声を上げた悠翔。

 尋翔はチラリと自分の右側にいる悠翔を見やったが、反対側なので、よくは見えなかった。


「あ」


 しかし、悠翔の右手にあるものをよくよく見れば、それは紙のように見えた。


「なんだ、それ」

「あー。なんでもねぇ」


 隠す様に、悠翔はすぐさまそれをポケットに戻した。


 んだよ…。隠し事は良くねぇよ、バカヤロー…。


 少し、寂しい感じがした。



 
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