ポーカーフェイス
「隠し事すんじゃねぇよ…」
尋翔が呟いた声は、どうやら悠翔の耳には届いていない様だ。
眉を下げ、尋翔は自分の右側にいる兄の顔を窺った。
「?」
悠翔は何やら、口だけをパクパク動かしている。
「おい?」
それでも、口だけを動かすその動作は止まらない。
「おい!どうした!」
「ぇ…あ…?わ、悪ぃ」
考え事をしていたのか。
悠翔のその瞳は、焦点が合っていないように思えた。
「大丈夫か?お前」
心配そうに尋翔は悠翔に尋ねた。
「目ぇ、真っ赤に腫れ上がった人間に心配されるなんて、俺も落ちぶれたか」
目を見開いた悠翔は、尋翔を見つめたまま小さく笑い、弟の頭を軽くはたいた。
「あーーーーっっ!!るせぇ、るせぇ、るせぇ!!」
顔を赤くした尋翔は、近所迷惑な声を出した。
ああ、これでこそだよ。
これが俺の兄ちゃんだ。悠翔だ。
心のつっかえが、消えた。
懐かしいこのやり取りが、永久(とわ)に続けばいいのにと、らしくもない願事をしたのは、胸にそっと秘めておく事にしよう。