ポーカーフェイス
「うぅ~、さっみぃぃ~」
「なー」
外はもう暗く、北風が体にしみた。
暦上ではもう春だというのに、吐く息は白い。
尋翔は首に巻いた赤と緑のチェック柄のマフラーに、鼻までズボッと顔をうずめた。
「あっ。ずりぃ」
「ガキかて。てめぇは」
「心は少年だ」
「俺も、右に同じだが?」
悠翔はマフラーも手袋も無く、ダッフルコートだけなので尋翔に比べれば幾分か寒いのだろう。
「しゃーねぇ。こうなったら、最終手段か」
右隣でぽつりと呟かれ、尋翔は小首を傾げる。
すると、悠翔はコートのフードをガバッと勢いよく目深に被った。
「うん。マシになった」
「その手があったか」
他愛もない会話を交わしていると、いつの間にか自宅が見えてきた。と言っても、そこそこ高級なマンションなのだが。
2人はそこで、別々の部屋で暮らしている。隣り合ってはいるが。
「じゃな」
「おー。…ちょっ、ストップ」
「あぁ?」
部屋に入ろうと鍵穴に鍵を差し込んだ尋翔を、寸でのことろで悠翔はストップをかけた。
「んだよ」
「あんさ、さっきのドラマの監督にさ、次のドラマの主演やんねぇか、って言われたんだけど。…正確に言えば主演の彼氏役だけど」
「で?」
「『で?』って…。なんか助言くれよ!マネージャーだろ、お前!」
「何でもかんでもマネージャーに頼る俳優は、この先売れねぇぞ」