先輩上司と秘密の部屋で
「……もういいよ。今度からは絶対やめてね」
「……ごめん……」
隼人が寂しそうに眉を下げるから、杏奈はこうして今回も許してしまう。
結局のところ、杏奈も隼人には甘い。
そういうところが隼人の行動を助長してしまっていることに、杏奈はもちろん気づいてすらいいないのだ。
「……なるほど。隼人くんがどんな美人にも靡かない理由がこれか。小白川さん、あなた苦労してるのね」
「名前で呼んでもらって構いませんよ。私も是非“美那さん”と呼ばせて頂きたいです」
「全然構わないわ。よろしくね、杏奈ちゃん」
今まで静観していた美那が、気の毒そうにそっと声をかけてくる。
さすが大人の女性は物分りが早いと、杏奈は心の中で感心していた。サバサバした美那とは特に、気が合いそうな予感がする。
「なぁ杏奈、お前の教育係だけど……」
隼人が言いかけたところでスマホが鳴り、話が中断される。
どうやら得意先からの電話だったらしく、隼人は“ごめん”と小さく呟きながら足早にオフィスを抜け出してしまった。