先輩上司と秘密の部屋で
「おい門倉。小白川くんの指導は誰がすることになったんだ。さっさと決めて報告しろ」
「あ、はい。えっと……」
ロマンスグレーの髪が印象的な営業部門の部長に声をかけられて、門倉は姿勢をピンと正している。
どうやら杏奈は、門倉や美那と一緒のチームで働くことになるらしい。
パーテーションで区切られたその空間の中には、他にも二、三名の社員の姿が見受けられた。
「この中だったら香月が適任じゃないの? 女性同士仲良くさぁ……」
「やってあげたいのは山々なんだけど、今仕事が結構立て込んでて……ごめんね? 杏奈ちゃん」
申し訳なさそうに頭を下げてくる美那に、杏奈は一生懸命かぶりを振る。
自分の仕事を優先させるのは当たり前のことだと思った杏奈は、気にしていないという思いを込め、美那に向かって笑顔を見せていた。
「困ったな。……あいつも見当たらないし。 一応リーダーのくせに、どこ行ったんだよ……」
“あいつ”とは、一体誰のことを指しているんだろう。そう思った杏奈は、ひとりだけ首を傾げていた。
「門倉くんがやれば? 部長の評価、上げたいでしょ」
「仕方ないな。じゃあ……」
渋々手を上げた門倉に対して申し訳なく思い、頭を下げる。
その時ずっと空席だった正面に人の気配を感じて、杏奈は視線をゆっくりと前に向けていた。