先輩上司と秘密の部屋で
(まさか、助けてくれた……?)
一瞬そう思った杏奈だったが、すぐに呆気なく打ちのめされてしまう。
「隼人もふざけすぎだ」
嵐士が杏奈のそばにいたのは、ほんの一瞬だけ。
ソファーの横で膝立ちになった嵐士は、杏奈にかけるよりも柔らかい声で、隼人の顔を心配そうに覗き込んでいた。
さらにいじけて膨れてしまった面構えの隼人に苦笑しながら、甲斐甲斐しく水の入ったグラスを口に運んでいる。
「おい……零すなって。全く、お前は子供か」
口に入りきらなかった分が、隼人のシャープな顎を伝っていく。
嵐士はそれを迷うことなく長い指で掬い、自分のワイシャツの裾口で濡れた隼人の首筋の辺りをキレイに拭き取っていた。
ふたりは完全に、自分たちの世界を作ってしまっている。
蚊帳の外に放り出されてしまった杏奈は、為す術なくその場に立ち尽くすことしか出来ない。
おそらく、人生で一番衝撃的な光景だった。
見目麗しいふたりが睦み合いながら、なんだか妖しい雰囲気を漂わせている。
そして杏奈は唐突に、昼間自身が笑い飛ばした話を思い出してしまった。