先輩上司と秘密の部屋で


(こんなの、どう考えてもおかしいよ……)


ただ運ぶのを手伝っているだけなのに、杏奈は責められているような感覚に陥る。

妹として当然のことをしているだけなのに、嵐士はそれを快く思っていない。

隼人をベッドまで運ぶ間、杏奈は蛇に睨まれたカエルのような心境で生きた心地がしなかった。


「お兄ちゃ……」

「隼人、着替えは?」

「……むり……」


横になった隼人は怠そうな声を上げながら、自分の枕を腕の中に抱えこんでいる。

会話にすら参加させてもらえない杏奈は、またのけ者にされてしまった気がして、何も言えず唇を噛み締めていた。

隼人のことを見つめる嵐士の表情には、優しさや気遣いが溢れ出ているのに。

杏奈に対しては真逆で、眉間に深く皺を寄せたまま、不機嫌な雰囲気を隠そうともしない。

相当嫌われているんだなと、杏奈は途端に切なくなり視線を足元に下げる。

昔助けてくれたのは、親友の妹に対する同情だったのだろう。

現に嵐士は、あの時のことを覚えてすらいない。

隼人とは違いすぎる嵐士の待遇に、杏奈は強い憤りを覚えていた。

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