先輩上司と秘密の部屋で
「皺になるからちゃんと着替えろ」
「ん~……」
嵐士に強く言われると、隼人は渋々起き上がってスーツを無造作に脱ぎ始める。
散らばった衣服に触れようとした杏奈の手より先に、嵐士はそれらを拾い集めてしまった。
スーツをかけるクローゼットの場所や、部屋着のしまってあるチェスト。
それらを慣れた様子で探り当てる嵐士を、杏奈は所在なさげに見つめていた。
「あんな……手……」
「手……?」
着替え終えた隼人が再びベッドに横になり、杏奈に向かってゴツゴツとした長い指先を伸ばしてくる。
言われるがままに手を差し伸べると、隼人は指同士を絡めるようにして杏奈の白くて華奢な手をギュッと握りしめてきた。
「お兄ちゃん……?」
前髪に隠れて、隼人の表情が見えない。
酔っているせいなのか、隼人の手のひらはじんわりと熱を孕んでいた。
「……あんな」
「ん?」
繋いだ手を自分の頬にくっつけながら、隼人は弱々しく口元に笑みを浮かべる。
ぎこちないその仕草に何か不安を覚え、杏奈は動きを止めてしまっていた。