甘く響く
「クライブ様、失礼しました」

ゼルは軽く頭を下げてみせた
クライブと呼ばれた背の高い男は音もなく静かにレイに近づいた

「へぇー…レイ?本当にいたんだ…」

そう言いながら男は跪き、大きな手でレイの小さな手を掬った
手の甲に軽い触れるだけのキスをする

「クライブ・ヴァイオレットです。麗しきレイ姫、会えたことを光栄に思います」

クライブの行動は
庶民であるレイには刺激が強すぎた
初めての男性からのキス
意識すればするほど頭に熱が上る

「…耳まで赤い。…かわいいなあ…」

クライブはとても楽しそうに笑った
からかわれているんだ、と、そのとき気付いた

「クライブ様、レイさんは大切なお客様です。その辺にしておいてください」

ゼルが呆れたように言うと
クライブは手をヒラヒラと振った

「レイちゃん、また遊ぼね」

そう言って軽くウインクして
クライブは背を向けて歩き出した

その姿を目で追っていると
ゼルのわざとらしい大きなため息が聞こえた

「アル様のご長男です。要注意人物なのでお気をつけください」

ゼルの言葉にレイは何度か頷く
手の甲に残るあの感触が
またレイの顔の温度を上げた

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