あなたがいなければ。【短編小説】
「あのね…」
「あぁ」
「晃君が転校してきて薄々分かってた。晃君がたっ君だって事。
でも9、10年会ってなくてはっきりとは分からなかった。
あんなに好きだったのに…。“たっ君”が大好きだったのに…。大好きだから会ったらすぐ分かるはずなのに。分からなかった。それが凄く悔しい。」
晃君は黙り込んでいる。
それでも話を続ける。
「それに頼れよって言ってくれて、凄く嬉しかった。でも、それと同時に怖かった。晃君がお兄ちゃんと重なって見えたの。」
少しだけ涙腺が緩む。
「今もそうだった。好きだって言ってくれたのに…。そういう風に言ったお兄ちゃんと重なる。怖いの。またお兄ちゃんに汚されるのは…。」
私の体はいつの間に晃君の腕の中にいるのだろう。
でも…
「安心する。晃君の腕の中。」
ドキドキする。
私やっぱり…
「私も好き。晃君が。大好き。」
「俺も大好きだけど、実は、愛してる。」
「ありがとう。」
「あぁ。」
晃君は涙でいっぱいの私の頬にキスをした。
「これからは俺が付いてるから。頼れよ。」
「うん。」
ありがとう。
晃君。
でもダメだ。
もう少ししたら離れてしまうから。
そんな事相談出来ない。
ごめんね。
離れるときはきっと“合図”するからね。