あなたがいなければ。【短編小説】


俺は、どうなるんだろうか…。


『お前は頭も良いし、意志も強い。だから私立の学校に行け。』
『でも、お金…。』
『それはこっちで負担する。そういう風に、お父様が言っていたんだ。』
『は?』
『おまえにはまだ分かんないよ。長年一緒にいれば、言われなくても分かる。』
『…。』
『T都私立の○○小学校に行け。』
『遠いじゃん!』
『お前にピッタリなんだ。引っ越しをしろ。引っ越し代も神崎グループが出すから大丈夫だ。』
『慧里奈とは…』
『しばしのサヨナラだな。』
『いつまで?』
『お前の努力次第だ。速ければ中学卒業で戻ってこれる。今の家もとっておきたいなら、とっておけばいい。召し使いに、定期的に掃除させるから。』
『本当に?』
『あぁ。』
『お父さんとお母さんになんて言えば…』
『もう連絡してある。』
『はやっ!』
『やることが早くなければ、雇っていないからな。』

『…。じゃあ転校?』
『そうだな。』
『そ…っか。』
『悲しいか?』
『うーん。わかんない。でもなんで転校する必要があるの?』
『――――つがせるから。』
『えっ?』
『神崎の名を継がせるから。』
『継がせるって、後を受けて続けるってやつ?』
『そんな感じ…かな?』
『じゃあ、慧里奈との政略結婚?』
『その通りだけど、意味しってんのか?』
『利益を得るための結婚。』
『その通りだ。やっぱり歩く辞典だな。』
『嬉しいような悲しいような。』
『でも慧里奈が嫌がったら、そこでアウト。神崎家は慧里奈の意志で動いてるようなもんだからな。政略結婚は無しになる。だから…』
『全部水の泡になる。ですか?』
『そうだな。だからお前は後一週間の間に慧里奈をものにして、高校生になったら迫ればいい。』
『慧里奈をものにする…。』


これは最強の問題だ。

あの慧里奈が俺に惚れる?
ほぼ不可能に近いじゃないか。


『無理だと思ってるだろ。』
『…』
『大丈夫だ。俺の観察によれば、慧里奈はもう恋してる。』
『はぁ!?そんなこと無いですよ。慧里奈は俺には…。』

考えてるだけで凹む。
慧里奈を守りたい。

なのに…

『自信が無いです。』
『まぁ。深く考えるな。まだ子供だしな。』
『はぁ。』

後一週間――か。


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