ぽんぽんぼん
「あっ、そういえば!私、バカ田に用事があったんだった」
唐突にそう言ったと思ったら、ガタッと前の席からはるるんが立ち上がる音が聞こえてくる。
慌ててガバッと勢い良く顔を上げたが、既にはるるんは山田君の席へと向かっていて。
「はるるん?」
そう首を傾げるしかない。
首を傾げてはるるんの後ろ姿を見ている私の前へと映り込む人影。
「あっ!」
その人の顔を見上げ、目を丸くさせたまま固まってしまう。
「森山さん、おはよう」
「お、おはよう。梶木君」
驚く程いつもと変わらない梶木君とぎこちない挨拶を返す私。
何だか私が一人で意識しているだけの構図だ。
梶木君は、怒っている訳でも、嫌そう顔をする訳でもない。
……というよりも、梶木君から私の方に来てくれた事なんて、これが初めてだと思う。
だから、さっきはるるんは珍しいって言ったんだ。
梶木君が私の方へと歩いて来ていたから。
呆然としながら、ただただ梶木君の顔を見つめるだけの私に、はぁっと溜め息を吐くと共に梶木君が口を開く。
「あのさ。今日の放課後って空いてる?」
「放課後!?」
「そう。森山さんに話したい事あるから」
梶木君が、私に話したい事!?
「あ、空いてる!」
もし用事があったとしても空けるよ!
梶木君ともう話せないと思ってたから、話す事が出来る機会をみすみす手放す筈がない。
「じゃあ、授業終わったら教室残っといて。忘れて帰らないでよ」
そう言いながらフッと笑う梶木君。