私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
「駅まで送る」
「ありがとうございます」

 海斗さんは先に歩きだし、私は改めて田中さんに会釈して、すぐに海斗さんの所に駆け寄った。

「送っていただいてありがとうございます」
「別に」
「………」

 言葉の最後に棘が含まれているような気がするので、こっちも話しづらくなって無言になっちゃう。

 お婆さんたちと海藻を取り除いているときは喋っていたのに、私とはどうも会話が続かないや。

 馴れ馴れしくされるのは嫌いなのかな?こうして送ってくれるのも田中さんの頼みというのもあるし、1人で帰ろうっと。

「ここからは1人で帰ります」
「1人じゃ危ない」
「でも―…」

 ぎこちない雰囲気に耐えられそうにもないし、海斗さんもいやいやで送っているかもしれないしと思うと1人で帰った方がいいんだけどな。

「この辺りは暗くなると変な奴とか多いから、あんた1人じゃ危ないから送る」

 辺りを見渡すと確かに街灯も少なく、暗くなったら何処も見えなさそう。

「ここって暗いと怖いですか?」
「まぁ、見えなくて海に落ちたりする奴もいるくらいだし、幽霊だって出る」
「本当ですか?!」
「嘘」

 淡々と答える海斗さんに、びっくりした自分が情けない。

「ちょっと、嘘ってなんですか?びっくりしちゃったじゃないですか!」
「からかっただけ」

 海斗さんは表情はいつものように変わらないけど、声のトーンからして笑っているのが分かった。

「も~、笑わないでください!」

 肩を震わせながら先を歩く海斗さんにムッとしながら、後をついて歩いていると駅が見えてきた。
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