私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
「まだかなぁ」

 一体、何度目の台詞だろう。

 私は椅子に座り何度も腕時計で時間を確認しながら、この台詞を呟く。

 ファッション部にいた頃は雑誌の制作時間に追われていたから、あっという間に1日が終わるけれど、新しく異動となったタウン情報部はまだ誰一人も姿をみせていない。

 昼過ぎに来るって言ってたけど、重役出勤かよと突っ込みしたくなる。

 私は今まで経験したことのない時間の流れに、苛立ちを覚えた。

 時間はもうすぐお昼になるけれど、本当に来るよね?

 するとフロアのドアが開かれて姫川編集長が入ってきたので、私は椅子から立ちあがった。

「姫川編集長、おはようございます。今日から宜しくお願いします」
「此れから仕事を覚えてもらうから、さっさと荷物をまとめろ」

 私は姫川編集長に挨拶をすると、姫川編集長は私の横を通り過ぎて上座の席に鞄を置いて、引き出しからデジカメや手帳を取り出して鞄の中に入れた。

 あれ?タウン情報部にある机は5つあって、1つは姫川編集長でもう1つは私が使うのが分かるけれど、残りの3つの椅子は空席のままだから他にもメンバーがいると思うんだけどな。

「待ってください、他のタウン情報部の方はいないんですか?」
「タウン情報部は、俺とお前だけだ」
「えぇ?2人だけなんですか?」
「時間がねぇから、出るぞ。仕事は歩きながら説明するからな」
「えっ、ちょっと…、用意をしますから!」

 姫川編集長は鞄を手にしてすたすたとドアに向かうので、私も置いていかれないように急いでバックを持って後を付いていく。

 水瀬編集長はタウン情報部のメンバーが姫川編集長と私だけだなんて、そんな説明を一つもしてない!

 これは後で、じっくりと問い詰めなきゃ。
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