私が恋した男〜海男と都会男~
編集部フロアに入ると既に姫川編集長が自席にいて、やばい、急いで行かなくちゃ。

速足でタウン情報部のエリアに行き、姫川編集長のそばに行く。

「おはようございます」
「俺より遅いなんていい度胸だな」
「まだ始業まで時間があります。取材の準備をしますね」
「っち」

もう姫川編集長の舌打ちなんて気にしない。

自分の机の上にバックを置いて、取材に必要なメモ帳や考えてきた質問内容や進行スケジュールの用紙をバックに入れる。

「いつでも取材にいけます」
「分かった」

姫川編集長もカメラを手にもってきちんと作動するかを確認して自分が使っているバックに入れ、2人で編集部を出た。

今回の取材先は普段はメディアに出ないといわれていて何度も何度も断れ続けていたけれど、ようやく店主から許可をもらえたから、絶対に読者に伝えていきたい。

藍山駅から電車を乗り継いて店舗の最寄り駅に到着すると、同じ都だけれど田んぼが多い景色が広がっていて、そこから30程歩いて見えてきたのは1件の洋菓子店だ。

「先に俺から挨拶するから、あとはお前が進めろ」
「はい」

姫川編集長が先に洋菓子店に入り、続いて私も中に入ると甘い香りが鼻孔をくすぐり、ショーケースにはシンプルだけど赤い果実が輝いて乗っているケーキに、果実がふんだんに盛り付けてあるタルト、ロールケーキなどがぎっしりと陳列されている。

ショーケースの後ろがキッチンスペースになっていて、そこには白髪の男性と一人の若い女性がケーキを作っていた。

「お忙しいところ恐縮ですが、四葉出版社タウン情報部の姫川と申します」

姫川編集長が声をかけると白髪の男性が手を止めて、こちらを見る。

「ああ、もうそんな時間か。ちょっと待っててください。あとは頼んだぞ」
「うん」

若い女性は手を休めることのなくケーキの盛り付けをし、白髪の男性は私たちのところに来た。

「洋菓子店フルールの田島と言います。奥でケーキを作っているのは娘の桃子(とうこ)です」
「改めて、タウン情報部の姫川と申します。こちらは九条で、本日の取材の進行は九条が進めます」
「九条麻衣と申します。本日はよろしくお願いします」
「ええ。あまり取材に慣れてない部分があるので、九条さんにお任せします」

田島さんのプレッシャーに負けないようにしなくちゃ。
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