私が恋した男〜海男と都会男~
「九条、外の自然光を入れたいから、撮影をするのはこっちのテーブルでやるぞ」
「はい」
「荷物はこっち、料理はこの場所の上に置いて」
「は、はい」

 私は姫川編集長から次から次へと出される指示に従って、撮影をしやすいように準備を進めていく。

「おまちどおさま、鶏定食です」
「ありがとうございます。九条、メインの皿を左に少しだけずらして」
「はい」

 大守さんが料理をお盆に載せて出してきたので、私はそれを受け取ってテーブルに置く。

 鶏定食の鶏は綺麗な黄金色に揚げられ、その上にタルタルソースが、他に御飯とお味噌汁、漬物が入った小鉢が鶏定食の脇を固めていた。

 姫川編集長は鞄から一眼のデジタルカメラを取り出すと設定を始め、そして何度かファインダーを覗く。

「ご飯は4ミリくらい右だな」
「こう…ですか?」
「あぁ、そんくらい」

 そして、カメラのシャッター音が鳴る。

「……」
「……」

 姫川編集長は黙ったまま色々な角度から撮影を続け、私も少し離れた所から静かに姫川編集長を見る。

 黙々と撮影をする姫川編集長の横顔は今までのだらしない雰囲気や厳しい表情とは違い、キリッとして、なんだか何時もとは違うように見えた。

 こんな表情をするんだ…と、そんなことを思っていたら、またしても私のお腹が盛大に鳴る。

 トースト1枚しか食べてこなかった私が悪いんだけど、も~、こんな時に鳴らなくてもいいじゃない!とお腹を抑えた。

「もうすぐ撮影終わるから、我慢しろ」
「ふっ、ハッハッハ」
「大守さんまで…、もー!どうせお腹空いてますよ!」

 姫川編集長と大守さんが肩を震わせ、私は開き直って姫川編集長の撮影を終えるのを待った。
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