私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
 歩いていた時は海って青くて広いなって思っていたのに、今はそんな風に思えないのは海に落ちたからだ。

 海の中って青じゃなくて藍色か黒に近いような気がしていて、このままだと危険だと感じて必死に手足を動かしても上に向かっているのか分からないし息苦しくなってくる。

 体か冷たい…、苦しいよ…、誰か助けて……、意識がだんだんと遠くなってきて、このまま私は死んじゃうの?もう意識が……

「……い、…―しろ」
「……イト、手をこっちに乗せろ」
「分かった。港に戻ったら、婆ちゃんに連絡して医者を呼んでもらう」

 医者?私は助かるの?もしかしてお迎えが来たってこと?ほんの少しだけ目を開けてみると、誰かが私を見おろしていて、それがどんな人なのかぼやけててわからないけど、私の体を温かく包んでいるような気がする。

「もう大丈夫だ」
「うっ…、あ…」

 本当に?って声を出したいけれど呼吸が上手くいかなくて言葉が途切れ途切れになってしまい、そして意識を手放した。
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