私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
 何かが私の頬を触る感覚が…、これって私が小さい頃風邪を引いちゃってお母さんが早くよくなりますようにって頬っぺたを触ってくれたみたいで、何度も頬を優しく触られる。

「お母さん…」
「おや、起きたかい?目が覚めて良かったねぇ」
「うひゃあ」

 私は意識を取り戻すと突然視界にお婆さんがぬっと現れて、変な声を出してしまった。

 びびびっ、ビックリした!一体誰?というか私は助かったんだよね?個々はどこ?私は―…九条麻衣で、お決まりの台詞が思い浮かべたけど、どうやら記憶喪失にはなってないみたいで、お婆さんはにこにこと微笑んでいる。

 私は何とか力を振り絞って起き上がって周りの状況をきょろきょろと見渡すと、どうやら私は和室の中に居て布団に寝ていたようで服は誰かの浴衣を着ている状態だった。

「あの…、助けていただいてありがとうございます」
「私よりも海斗(かいと)にお礼を言ってちょうだい。貴女が海に落ちたって海斗から電話が来たときはびっくりしちけど、目が覚めて良かったわぁ」

 お婆さんは私の手を握りながら助けてくれた人の名前を告げると、ギシギシと足音が聞こえて和室の襖が開き、一人の男性が洗面器を手にして立っていた。

 長身で肌は色白く、漆黒の瞳はどこか寂しさを帯びていて、この人が海に落ちた私を助けてくれた助けてくれた海斗さんなんだよね?

「婆ちゃん、お湯を持ってきた」
「海斗、ありがとね。机の上に置いてちょうだい」
「分かった。あんた、起きたんだ」

 何だか素っ気ない言い方が誰かに似ていると思ったのは気のせい?

「助けていただいて、ありがとうございました」
「別に…、死んだらヨシハラの爺さんが悲しむから」
「ヨシハラの爺さん?」
「あんたの隣で団扇持っていた爺さんは定食屋【ヨシハラ】の初代の店主で、皆はヨシハラの爺さんって呼んでる。俺は部屋に戻るから」

 海斗さんはそう言って和室から出て行き、私とお婆さんだけが和室に取り残された。
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