私が恋した男〜海男と都会男~
「荒木がいつも居ないのは始まったことじゃないし、姫川から始めようよ」

 高坂専務は荒木編集長がいないことに慣れているのか、のんびりとした口調で会議を進めようとして、姫川編集長はふぅっと一息吐くと、会議室全体を見渡しながら口を開いた。

「会議を始めるぞ。俺たちタウン情報部はF市の宇ノ島近辺の海の家が密集するエリアを選び、併せてファッション部との―…」

 姫川編集長は次々とアイディアを説明すると、高坂専務はうんうんとうなづき、他部署の人たちも話を聞きながら熱心にメモを取る。

「今回の季刊のタウン情報部のページは、九条に書いてもらう」
「おっ、九条ちゃんが書くんだ。そりゃあ、楽しみだね」
「あはは……、頑張ります」

 高坂専務が語尾に音符や星のマークを付けるようにとても和かに微笑むけど、それは期待を込めているのか?そうではないのか、う~、どっちだろ?何だかその微笑みが怖いというか…、今更ながら高坂専務の笑顔の怖さを感じるのだった。

「俺からの話は以上だ。九条、お前から何かアイディアあるか?」

 姫川編集長が私にアイディアあるか尋ね、この前F市を自分の足で歩いたあの街のスポットも言ってみようかな?細い路地裏にあるお店や漁港等を書いてみたいと思うくらい、あの街の雰囲気はいいのだから。

「アイディアというか、書きたい地域がありまして、宇ノ島近辺にある路地裏を取り上げたいです」
「へぇ~、どうしてその路地裏を?」

 高坂専務が身を乗り出すようにするから、ここでひるまないようにちゃんと説明しよう。
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