私が恋した男〜海男と都会男~
 会議室から編集部に戻って、次は『Focus』の入稿(印刷所に提出する校正済みの原稿)の作業で、今は季刊と『Focus』の原稿を同時進行で作業をしているから、間違えないように保存するフォルダの色を別にしておこうかな。

「ふぁあ…」

 連日の激務にこの間の海に落ちてしまったこともあって疲れが溜まっているけど、朝早くから姫川編集長が目の下のクマが濃いまま仕事をしているんだもの、私だって四つ葉出版が初めて発売する季刊を任されたことを完璧にしなきゃ。

 意識を切り替えようと姿勢を正して、ふぅっと息を吐く。

「地図のレイアウトは、もう少し色をはっきりさせた方がいいかな」

 タウン情報部へ異動してからは、姫川編集長から地図のレイアウトの仕方を叩きこまれ、少しずつこの作業を任されることになった。

 私が作った地図を『Focus』の読者が頼りに街を歩くわけで、薄い色遣いにすると分かりづらくなってしまうから、パソコンのマウスを使って画像の色の数値を増やしたり減らしたりして、地図の色を調整する。

「今日はどのくらい残るんだ」

 姫川編集長が自分のパソコンを凝視しながら、残業する時間を尋ねる。

 入稿の進み具合を考えれば終電ギリギリまで続けなくちゃいけなくて、ファッション部でも残業や徹夜は当たり前だったし、遅くまでいるのは慣れてしまった。

「終電ギリギリまでと考えています」
「そうか。今回はスケジュールがタイトだから、明後日の週末からF市で取材に向かうことにするぞ」
「分かりました」

 姫川編集長はそれだけ答えるとキーボードを打つ指の動きが速くなり、私もまた地図のレイアウト作業に戻る。

 またF市の所に行けると思うと,太陽のようで海のように広く深く包んでくれたヒデコ婆ちゃんの笑顔が浮かんで、それに海斗さんにも会えるかな?取材の目処がついたら、2人に会いに行こう。
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