私が恋した男〜海男と都会男~
 そういえば、どうして姫川編集長は季刊で取り上げるエリアを宇ノ島にしたんだろう?その理由って、聞いたことがないや。

「姫川編集長、質問をいいですか?」
「何だ?」
「どうして宇ノ島を選んだんですか?他にもY浜エリアもありますけれど、どうして宇ノ島なのかなって」
「それは……」
「それは?」

 姫川編集長はなんて答えるんだろう?

「旨い魚が食えるからだ」
「はい?」

 魚?魚って言ったよね?私があの路地裏に惹かれたことのように、姫川編集長にも宇ノ島を選んだには何かがあるのだろうと思ったけれど、魚が旨いからという理由に面食らう。

「聞いた私が馬鹿でした」
「俺は聞かれたから答えたまでだ」
「ごちそうさまでした」

 あー!もー!!これ以上話すと絶対にストレスが溜まりそうだから、校正の作業に戻ろう。

 食べ終わったプリンとサンドイッチのゴミを処分して、原稿の校正作業を再開し、校正ソフトを使って段落ごとに文章の句読点の位置や漢字がおかしくないかをチェックしていくと、画面を見すぎているせいか目がちかちかしてきて、手で目の周りのコリを解してみる。

 長時間も画面を見すぎちゃうとこうなるし、肩も凝っているような気がしてきたし、今度の休みに整体に行ってこようかな。

「今日はもう上がれ」

 姫川編集長がパソコンの画面をじぃっと見たまま言うけれど、ここで終えると中途半端になる。

「でも校正がまだ残っています」
「疲れたままでやるとミスるから、帰れ。上司命令だ」
「……分かりました」

 強めに"帰れ"と言われてしまうと帰るしかないから、渋々パソコンの電源を落として荷物をまとめた。
< 69 / 161 >

この作品をシェア

pagetop