私が恋した男〜海男と都会男~
 姫川編集長の後に続いて歩いていくと、何処か見覚えのある風景が―…、ここって海斗さんとヒデ子婆ちゃんが住む佐々原家の近くだ。

 ヒデ子婆ちゃんと一緒に歩いたから覚えているし、もしかして姫川編集長が行きたいところって2人の家?!

 徐々にその家が見えてきて、姫川編集長は家の前に立ち止まった。

「ここ、俺が生まれ育った家だ」
「この家が…」

 家の表札に書かれていたのは『佐々原』で、本当に姫川編集長と海斗さんは兄弟なんだ。

「婆ちゃん、岳だ!」

 姫川編集長が家の中に聞こえるように叫ぶと、足音が聞こえて玄関が開き、そこにヒデ子婆ちゃんがいた。

「おゃまぁ岳じゃないか、元気そうだね。あれ?麻衣ちゃん?」
「こんにちわ、ヒデ子婆ちゃん」
「婆ちゃん、こいつ、職場先の部下なんだ」
「そうかい、こんなこともあるんだねぇ」

 ヒデ子婆ちゃんは初めて会った時のように、太陽のような優しい笑みで姫川編集長を見る。

 そうだ、忘れないうちに、ここに来る前に買ったお土産の水羊羹を渡さなくちゃ。

「ヒデ子婆ちゃん、この間は本当にお世話になりました。つまらないものですが、受け取って下さい」
「まぁ、気を使わなくていいのよ」
「泊めていただいたし、せめてものお礼をさせて下さい」
「ありがとう。3つもあるから、食べれるかしら?」
「婆ちゃん、それはヨシハラの爺さんと海斗の分も入ってるから、全部婆ちゃんのじゃない」
「あらやだ。私ったら恥ずかしいわぁ」
「ふふっ…、ははっ」

 姫川編集長の鋭い突っ込みが入り、ヒデ子婆ちゃんは照れていて、可愛いなぁ。

 お土産を渡せたし、海斗さんの口にもあえばいいな。
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