私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
◇第10章:海男が住む街
 暫らく姫川編集長と灯台から海を眺めていると、空はオレンジ色で海もその色に染まり始め、夕陽に照らされた海がとても綺麗で、ますますこの街の魅力を伝えたいと強く思った。

「前にお前に聞かれた質問だが」
「質問?」
「『どうしてこの街(宇ノ島)を選んだんですか?』ってやつだ。あの答え、魚が旨いからは冗談だ」
「その答えを聞いた時は、内心質問した私が馬鹿だったと思いましたよ」
「そっか」

 姫川編集長は笑っているけれど、あの時は本気で質問をした自分を馬鹿だなと思ったんだけどな。

「本当の答えは、生まれ育ったこの街を取り上げたかったからだ」

 姫川編集長はまっすぐ前を向いたまま、あの時の質問の本当の答えを言った。

「母親さ、都会に引っ越しをしてからは再婚をするまで女一つで俺を育て、仕事が休みの度に色んな街へ連れて行ってくれたんだ。それからだ、街を歩くのが好きになったのは。四つ葉に入ったのも街歩きが出来るからもあったが、いつか自分の手で生まれ育った街を取り上げたいと思ったのが、四つ葉に入社を決めた一番の理由だ」
「………」

 今まで姫川編集長から語られることのなかった過去のこと、四つ葉に入ったこと、季刊で取り上げたかった本当の理由を聞いて、どう答えればいいのか言葉を探すけど、浮かばずに黙ってしまう。

「うわっ」
「危ねぇな」

 海風で髪が舞い上がっちゃって、帽子が飛ばされないように手で押さえると、姫川編集長は私の手に大きな手を置いた。

「…………アイツより」
「はい?」
「何でもねぇよ」
「ちょっと、うわっ」

 何か言いかけていたのが気になったから顔を上げようと思っても、姫川編集長の大きな手で上げることが出来なくて、そんなに強く抑えられると、髪がぐちゃぐちゃになっちゃう!
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