私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
 翌日、疲れが残ったまま四つ葉出版社へ出勤し、編集部のフロアに入ると姫川編集長の姿が無いから、会議で遅れるのかな?それだったら、今のうちに進められる作業はしておいた方がいいよね。

 『Clover』にいたころは読者層が私と年齢が近いともあって書きやすかったけど、『Focus』は様々な年齢層が読みそうだからどんな風にアプローチをするかを考えよう。

 パソコンの電源を入れて、文章作成ソフトを立ち上げて、企画書を作りだす。

 表に見えるものだけだと他の雑誌と同じになるし、『生まれ育ったこの街を取り上げたかった』と姫川編集長が灯台で話してくれた言葉のように、そこの街で暮らしている人たちにスポットを当ててみるのもいいかもしれない。

 そうと決まれば取材と撮影を許可してくれる人を決めて、すぐにでも取り掛かりたいな。

 ファッション部との合同撮影だと準備にも慌ただしいから、その前の2日間は自分の取材としての時間を貰えるか姫川編集長に相談してみよう。

 季刊の読者層を考えると、年齢が高めなら先ずはヨシハラのお爺さんでしょ?ヒデ子婆ちゃんなら、街の歴史について教えてもらおうかな?若い読者に向けるとしたら海斗さんに話を聞きたいけれど、もう来るなとか言われちゃったし……、その拒絶の言葉は胸に深く突き刺さって、近づきそうだった距離が波にさらわれて大きく引き離されたような気がした。

「手が止まっているぞ」
「うわっ」

 背後から姫川編集長に話しかれられて、びっくりした。

「おはようございます。相談ですが、ファッション部との合同撮影の前に、自分の季刊の取材や撮影などの時間をいただくことは可能ですか?」
「今のところ『Focus』のスケジュール自体は問題ねぇから、行ってもいいぞ」
「ありがとうございます!」

 早速明日は宇ノ島の路地裏へ行って、取材をしてくれる人を見つけてこよう。
< 94 / 161 >

この作品をシェア

pagetop