私が恋した男〜海男と都会男~
「あんた、ここで何をしてるんだ」

 振り返ると海斗さんがいて、手には大きなバケツが1つあった。

「仕事の資料を作るために、この周辺を撮影していました。海斗さんは?」
「ヒデ子婆ちゃんに頼まれて、漁港に手伝いに行くところだ」

 漁港…、そこも撮影してもいいか聞いてみよう。

「もし良かったらですけど漁港の撮影をしたいのですが、どなたに相談をすればいいですか?海斗さんの邪魔はしませんので、どうか撮影をさせてください」

 海斗さんに向けて深く頭を下げた。

「……それだったら運営をしている人を紹介する。一緒にきて」
「ありがとうございます」

 頭をあげると先を歩く海斗さんに置いてかれないようについていって、漁港に到着すると海斗さんは1軒のプレハブに指をさした。

「あそこがここの漁港を運営している事務所だ。今なら社長がいるから、ちょっとここで待っていろ」

 先に海斗さんがプレハブのドアを開けて中に入り、数分後に1人の男性を連れて出てきた。

 男性は海斗さんや姫川編集長よりも少し背が低いけれど、体ががっしりとしていて、この人も漁師なのかな?

「この人が社長の田中さんだ」
「はじめまして。都内にある出版社に勤めています、九条麻衣と申します」
「こちらこそ、わざわざ遠いところまで来ていただいてありがとうございます」
「俺はもう行く」
「海斗さん、ありがとうございました」
「……」

 海斗さんは返事をすることなく漁港の方へ行っちゃった…、私って嫌われちゃってるのかな?
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