私が恋した男〜海男と都会男~
「ああいう態度でご免な」
「いいえ。あまり気にしていません」

 本当は気にしているけれど、ごまかしちゃった。

 今は仕事に集中、集中。

「このたび四つ葉出版社でタウン情報とスポーツとファッションをまとめた季刊が発行することになりまして、そのテーマが『宇ノ島』なんです。私はこのタウン情報を担当することになり、現在は取材候補となる地域を探しているところです。本日はこの漁港を撮影したいのですが可能ですか?」
「海斗からも聞いたよ。撮影しても大丈夫だ」
「ありがとうございます!」

 良かった!これで撮影が出来れば、姫川編集長にも提案が出来る。

「それと、岳は元気にしているかい?」
「姫川編集長をご存じなのですか?」
「大分昔だが、俺は岳と海斗の親父さんと一緒の船に乗っていたんだよ。そうか…、岳は今は名字が違うのか」

 田中さんは嬉しさというよりも寂しさが含まれた表情でいて、せっかく取材をさせてもらうのにこういう雰囲気にさせちゃ駄目だ。

「今度、姫川編集長を連れてきます」
「楽しみにしてるよ。じゃあ案内をするから、行こうか」

 田中さんと一緒に漁港の中を歩いているとお店は殆ど閉店していてとても静かで、ヒデ子婆ちゃんと一緒に来た時はあちこちから声がして、とてもに賑やかだったのになぁ。

「この時間だと、殆どのお店はしまっているんですね」
「朝市やお昼がピークだね。閉店した今は、あっちで明日の漁の準備をしているんだよ」

 田中さんがあっちだと指をさす方向に顔を向けると、漁船が泊めてある前で数十人の人たちが網を弄っている光景だった。

 みんな和気あいあいとしながら網を弄っていて、楽しそう。
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