私が恋した男〜海男と都会男~
「近くで見てみるかい?」
「はい!」

 皆さんの邪魔をしないようにそっと近くで見ると、手にしている網には所々に海藻が絡んでいて、皆さんはそれを丁寧に取り除いてバケツに入れる作業をしている。

 よく見ると輪の中に海斗さんがいて、海斗さん以外はヒデ子婆ちゃんくらいの年齢の人たちばかりだけど、和気あいあいに話している海斗さんの姿を見て、私と話す時は素っ気ない感じでいるのにちょっとだけ寂しい気持ちが芽生えた。

 いけない、今は仕事で来てるんだからと顔を横に振って、皆さんを撮ろうとスマホを掲げ、あのお婆ちゃんの笑顔もいいし、全員が写るアングルもいいなぁ。

 何度もアングルを変えながらスマホの画面を見ていると海斗さんと目が合い、なんだか写真を撮っちゃいけないような気がしてスマホをそっと下ろして、海斗さんに会釈した。

「……」
「海斗の知り合いかい?」

 海斗さんは何も言わずにまた海藻を取り除く作業をし始めたら、傍にいるお婆さんが海斗さんに声をかけた。

「前に海に落ちたところを助けただけだ」
「あぁ、あの娘(こ)がそうだったんだね」
「九条さんと言って、都内で本を作る仕事をしていて、この街を取材をしているんだ」
「はじめまして、九条麻衣と申します」

 田中さんがお婆さんに紹介をしてくれて、皆さんに挨拶をした。

「まぁ、それは嬉しいねぇ。綺麗に撮ってもらわなくちゃ。服はこんな風なだけど、綺麗に写るかしらね」
「じぃさんに自慢しなくちゃ」
「私も化粧をしてくればよかったわぁ」

 お婆さんたちが冗談を交えながら迎え入れてくれる雰囲気にほっとする。

 自分のお婆ちゃんと話しているみたいで、こういう温かい雰囲気っていいなぁ。

 皆さんの作業を見ているだけじゃなくて、お手伝いしたいな。

 実際に手伝って漁のことやこの街のことも知りたいし、それを元に記事が書けそうだもの。
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