あなたが作るおいしいごはん【完】

初めて直接渡した日

差し出されたラッピングに

最初は驚いていた彼だけど

『………ありがとう。
そんなに気を遣わなくていいのに…。
嬉しいよ…。
帰ったらありがたく食べるからね。』

と、大きくて優しい手で

私の頭をそっと撫でてくれたり

また別の日には

「…いつもごちそう様です。
あの…また焼いたんですが
貰ってくれますか?」

私が恐る恐る差し出すと

『…こちらこそ、いつもありがとう。
勿論……ありがたく頂くよ。
この間の《クッキー》も
“シナモン”効いてておいしかったよ。』

と、彼は嫌な顔一つせずに

差し出した私の手から

微笑んで受け取ってくれた事も

あの頃の私には嬉しかった。


私が中学生になり

彼は専門学校を卒業後

短大生になって多忙になった事で

差し入れの訪問頻度は

少なくなりつつあったものの

それでもやり取りは暫く続き

私自身も作るお菓子が

《クッキー》からレベルアップして

《蒸しパン》、《パウンドケーキ》

《カップケーキ》になっても

『…美味そうだな。
良い香りがする…ありがとう。』

彼は照れ臭そうに微笑みながら

受け取ってくれていた。
< 77 / 290 >

この作品をシェア

pagetop