あなたが作るおいしいごはん【完】
***
コンコン…。
「…失礼します。
田宮さんこんばんは。」
キッチンスタジオの隣にある
彼の事務所のドアを開けて
中に入ると
『…あっ、こんばんは…浅倉さん。』
奥のデスクに座る田宮さんが
パソコンから目を離すと
手はキーボードを動かしたまま
こちらに視線を向けて
優しく微笑みを浮かべた。
…秀和社長の元秘書で
今は彼のキッチンスタジオと
この事務所の管理人も務める
実質的代表の田宮さんは36歳。
田宮さんは私のアルバイト先の
レナ店長の旦那さんでもあり
5歳の男の子の父親でもある。
明るいレナ店長に比べると
おとなしい性格だけど
有名大学を卒業した有能な人で
彼がいつも頼りにしている
縁の下の力持ち的な存在だ。
私もそんな田宮さんに微笑み返すと
「…今日もレナ店長から
残ったケーキ頂いちゃいました。
ありがとうございます。」
そう言ってケーキの箱を見せた。
クスクス笑った田宮さんは
『…いやいや、こちらこそ。』
と、手をとめると
かけている黒縁の眼鏡を
サッとかけ直しながら口を開いた。