桜まち 


櫂君の教育係になってから、私たちはほとんどランチを一緒にしていた。
それが他の女性社員たちから睨まれる原因の一つだとはわかっているけれど、櫂君と一緒にいると楽しいので、周囲のガヤガヤは面倒なのでできるだけスルーしている。
櫂君からも誘ってくるわけだし、断るのもおかしな感じだよね。

二人で近くの洋食屋さんに入り、一緒にオムライスのスプーンを握り締めていた。

「ここのオムライス。相変わらずボリューム凄いですね」

櫂君の言う、相変わらず、というのは。
一時、二人でここのオムライスにはまって足しげく通っていた時期があったからだ。

度々通っていた頃は、私の場合ライスを少なめにして注文をしていたのだけれど、久しぶりに来たせいで、少な目と伝えるのを忘れてしまったら、どーんとしたのが届いてしまった。
目の前に山のように盛り上がったボリューム満点のオムライスが現れてから、しまったと思ったけれどもう遅い。
盛り上がった卵の天辺には、長いウインナーまで乗っかっている。

「食べきれるかな?」

余りのボリュームに、つい、苦笑いが漏れてしまう。

「残ったら僕が食べますよ。食べられるだけ食べちゃってください」
「そう? ありがとね」

櫂君の好意に甘えた私は、心置きなく食事に取り掛かった。

「そうだ。お祖母ちゃんに、マンションの事訊いたんだけど、今は空きがないってさ」
「そうなんですか、残念だなぁ。菜穂子さんのところ、通勤に凄く便利だから狙ってたんですよ」

櫂君は、とても残念そうに項垂れている。
目の前のオムライスにブスブスとスプーンをつき立てているさまを見ると、行儀悪いぞ。と注意するよりも、タンタンと肩を叩いて落ち込むなよ。と慰めたい気分になってくる。

「ごめんねぇ」
「あ、いえいえ。空きがないのは菜穂子さんのせいじゃないので」

それもそうだけれど、あんまり残念そうにされると、なんだか酷く申し訳ない気持ちになってしまう。


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