コイツ、俺の嫁候補。
口元に手をあてながら、声を押し殺して泣いていると。

後ろから回された腕に、ぎゅうと抱きしめられた。



「那、央……」

「縁の心は狭くなんかない」



温かい言葉と腕に包まれて、また鼻の奥がツンとする。



「そうやって悩むのは当然のことだよ。他人が突然自分の親になるって、簡単に納得出来ることじゃないだろ」



那央は片方の手でそっと頭を撫でながら、あたしの気持ちを汲み取ってくれる。



「でも、それはおじさんも同じなんじゃねーかな」

「おじさんも……?」

「突然自分に子供が出来るんだぜ? しかも高校生の。その覚悟をするのは、結構勇気がいることだと思うんだけど」



そう言われてはっとした。

自分のことだけで、おじさんの立場でなんて考えたことなかった。

たしかに、那央の言う通りかもしれない。



「結婚するのだって、元は他人同士だろ。全然違う人間が、お互いを受け入れて時にはぶつかって。努力し合って家族になってくじゃん。
だから縁にも、少しはその努力が必要なのかもな」

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