桜が咲く頃~初戀~
『はい、お母さん。何?』

香奈は何時もと変わらず素っ気ない風に電話に出た。


『あぁなかなか出ないからどうしたかと心配したやん』

紀子はそう小声みたいな早口で言うと香奈の返事も待たずに

『今、おばぁちゃんの病院来てるんやけど、あんた達何処にいるの?』


「あぁ、病院だから小声なんや」と香奈はちょっと可笑しくなった。今朝の出来事が余程嬉しかったのが小声でも紀子の弾んだ声は明るく楽しげだった。

香奈は紀子のこんな声を久しく聞いて無かったので新鮮に感じていた。何時もなら香奈を気遣い何処か他人行儀の様な話し方だからだ。

『今な、Sデパートの中におるねんけど、もう2階に降りて来てる』

香奈がそう言うと紀子は


『じゃあ、一階の出口の中で待ってて、迎えに行くから。ん〜5分位で』


そう言うと香奈の返事も待たずに通話を切った。

そして5分後に紀子が運転する白いハコバンがデパートの入口前の駐車場に入って来た。
彩未は待ちかねたかの様に走り出して「彩未!走り出たらアカン!」と香奈に叱られた。


彩未はビクッとして真っ直ぐに両肩を上げて一旦立ち止まり左右を確かめてから車の助手席に飛び乗った。


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