桜が咲く頃~初戀~
圭亮にはもう自分には何も求める物は無いと思っていた。あの日、東京行きの話をおばぁちゃんにした時、きっと自分は間違えていたりしていないと信じ。こんな田舎より夢や希望があると思って止まなかった。


何時か大阪にいる香奈に会いに行けるその日が来るまで立派になっていると信じて来たけれど。


なのに?何故?

圭亮はだらし無く弱い自分を垣間見てしまうなんて。


何故、綾香と暮らしたんだろ?人を傷付けていったい何を得たんだろ?

自分も傷付けた?



自分の気持ちは幼いあの頃から全く変わっていないのに?


ここに帰って来た意味があるなら。大切な気持ちを誰かに伝える為では無いのか?


香菜がここに来ている事を知ったのは2ヶ月前だった。会いたいと思う気持ちと、こんな情けない自分を会わせられないという気持ちが交差して1歩も前に踏み出せ無かった圭亮は毎日、毎日苦しんだ。


それが嫌で疲れた圭亮は今回帰郷する事にしたのだ。


それが自分の気持ちを宥めてくれるのかは分からない。


そんな思いも混ざりあい。今から香菜に何を
どう、言葉に出来るなんて分からなかった。


自問自答しながら。圭亮はもうすぐ香奈がいる伊藤のおばぁちゃんの家の縁側にたどり着く。


少し伸びをしてその縁側を見た。


月明かりでおばぁちゃんの縁側はよく見えた。


「話さないと」


そう呟くと圭亮はその明かりに照らされている縁側を見る。少し笑いそうになりながら香奈を見つけて気持ちを締めた。
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