桜が咲く頃~初戀~
夏休み
それから午前9時になると慌ただしく3人は紀子の運転するワンボックスカーに乗り込みおばぁちゃんの待っている市立の市民病院に向かった。

相変わらず彩未は助手席で1人紀子や香奈に代わる代わる話しかけ。その口の動きと次々に変わる話を身体をいっぱいに使って表現しながら笑って話していた。


「私にも、こんな時があったんや」

香奈はそう思うと何故ひねくれてしまったか?と切なくなった。

「人一倍独占欲が強いのかも知れない」


そう思った。

「独占欲」子供だけでは無く誰しもが持っている気持ちでいて決して悪い物では無いと思うが行き過ぎるのは人も自分も悲しくさせてしまうのだ。使いかを一度間違えてしまうと誰しもが心に深い傷を付けてしまう。

幼い頃は母である紀子が父親の居ない香奈に出来る限りの愛情を注いで来た。おばぁちゃんが何時か話してくれていた様に母親の紀子は香奈だけの為にと泣きごとも漏らさず何時も明るく接してくれていたのだ。

それが香奈には本当に幸せだし嬉しかった。

それがある日父親だと良幸が現れ彩未が生まれ物心がついていた香奈は独り占め出来ていた紀子からの愛情を奪われたと嫉妬の気持ちを感じ日に日に気持ちを塞ぐ様になってしまったのだった。


その思いが勝手に今迄香奈を苦しめ続けて来たのだと後ろの席に座りながら綺麗に笑う彩未の顔を見て気が付いた。

おばぁちゃんの優しさや、田舎の周りの人の優しさ。あの桜の樹の「コトダマ」との出会いと、圭亮に再会した事で胸の奥に小さい明かりが灯ったのだ

< 125 / 222 >

この作品をシェア

pagetop