桜が咲く頃~初戀~
『バァちゃん。俺!腹減った』

圭亮が何時もの様に「腹減った」と言いながらおばぁちゃんの家の土間に勝手口から入って行くのが見えた。

『圭くんよ。チョコパン縁側に持って行っとるし香奈と食べなさい。バァは後から冷たいお茶持って行くしな。あっ、三ツ矢サイダーも酒屋から持って来てもろうとるが?どっちがいい?』

そう圭亮に聞くと圭亮は「三ツ矢サイダー」と答えて縁側にやって来て座りチョコパンの袋を両手で破った。

『香奈ちゃん。今日は何の話し?』

圭亮が話しかけた後にチョコパンをかじるのを上目遣いで見た香奈は本の表紙をたたんで見直してから


『海賊や無い。海洋探検隊の話やで』

そう答えてからまた『キャプテン・クック』の本に目を移した。

その香奈の言葉を聞いた圭亮は一瞬チョコパンを食べている口の動きを止めて表情までも止めた。

香奈が圭亮の問いかけに返事をしたのが初めてだったからだ。


圭亮は考えた。次の言葉が見つからない。


『あっ。あっ…そうなん?俺本に読まんし勉強も夏休みの宿題もまだ1個もしてないんよ。だから知らんかった。面白い?』

そう圭亮はドキドキしながら香奈に更に話しかけた。香奈は圭亮の口からこぼれる言葉だけを耳に入れて。


『うん』と一言だけ返事をした後は圭亮が何を話しかけても答えるのは止めた。恥ずかしいと思ったからだ。

でも、香奈はこの縁側が大好きだと思えるのは毎日こうして圭亮が来るからだと言う事は分かっている。

香奈はこの時初めて圭亮への気持ちがドキドキする物だと感じた。圭亮もこの時香奈と、同じく胸がドキドキしてチョコパンが喉に詰まる感じがしてた。



『お待たや。はい、三ツ矢サイダー』


そうおばぁちゃんは言って二人に凄く冷えて気持ちの良い音がする三ツ矢サイダーの瓶を2本縁側に置いた。


三ツ矢サイダーの瓶は周りが汗をかいたように水滴がまとわりついていて。中のサイダーはシュワシュワと小さな泡を沢山上に押上て綺麗な虹を作っていた。


『今日も、暑いなぁ』


おばぁちゃんはそう言うと伸びをしてグゥにした両手の手のひらを腰に回してトントンと叩いて家の中に入って行った。


香奈も圭亮もおばぁちゃんが見た空を見上げて蝉の煩く鳴く声を聞いていた。



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