桜が咲く頃~初戀~
お祝い
『バァちゃん。ほれ!起きんね?終点着いたんなけど。バァちゃんほれほれ!』


その声に香奈も彩未もおばあちゃんも目が覚めた。声をかけて来たのは昨日圭亮と楽しそうに話をしていたバスの運転手の大野大輝だった。おばぁちゃんとも顔見知りだったらしく物凄く優しくおばぁちゃんの左肩を揺すっていた。

『おぉ。寝ちょったねぇ。大輝かぁ?乗る時気いつかんかったわ』

そう言いながら辺りを見渡して既に暗くなった村の入口の小道を見て

『遅うなったねぇ』

と言いながら彩未の手を引きバスを降りた。彩未は今朝買って貰った新しい洋服の袋を幾つも両手にぶら下げて誰にも渡さず自分で持っていると言って一生懸命にヨタヨタとしながら歩く。香奈が持って上げると何度も声をかけたが、全く聞こうとしないこの気の強い性格は紀子譲りなのだろう。と香奈は笑いそうになりながら思った。

香奈も自分の新しい洋服の袋と苺のホールケーキの箱を持っておばぁちゃんが持っている荷物を確認した。おばぁちゃんの荷物はそれ程無かったのを安心しながら。


そこに、軽トラでおばぁちゃんの従兄弟の太一郎おじさんがやって来て持っている荷物と香奈と彩未を荷台に乗せるとおばぁちゃんを助手席に乗せておばぁちゃんの家まで送ってくれた。おばぁちゃんが電話しておいてくれたのだ。

『彩未。このケーキを上手に持って守ってくれる?』


香奈がガタガタと砂利道を走り揺れる軽トラの荷台で彩未にケーキの箱を渡すと彩未は初めての軽トラの荷台にワクワクしながらも目を輝かせて『うんうん』と頷くと18センチの苺のホールケーキの箱を膝に乗せて両手で抑えた。

彩未は新しい洋服よりも「おばぁちゃんのお祝い」と称して大好きな苺のケーキを買って貰ったのだから本当に大切に大切にガタガタと揺れる身体に力を入れて踏ん張っていた。

その姿が香奈はとても可愛いと思って笑いを堪えるしか無かった。




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