桜が咲く頃~初戀~
良幸
『あなた、遅くなりました。ごめんなさい』

そう紀子は良幸の入院する病院の病室の部屋のドアを開けた。

『あぁ。紀子すまんな。せっかく香奈に会えたのにな』

良幸はそう言うと横に向けた身体を丸くして寝ながら頭だけを動かして紀子を見た。少しの動きでも痛いのだろう?良幸はその動きにしかめっ面をして「いたた」と呻いた。その姿はまるでトドか良く言えば昼寝をしているパンダ見たいで紀子は声に出して笑ってしまった。

『あはは。あっごめんなさい。どうしてそうなったの?』

紀子は良幸の2、3日分の着替えを病室のロッカーに仕舞いながら聞くと


『あぁ。香奈が何時でも戻って来れる様にあの家の部屋に新しいベッド買ったんやけど。場所が分からんで、アッチこっち移動させとったらな。やられたわ』

そう苦笑いしながら良幸は事の詳細を語った。


『あなたが、太り過ぎなんもあかんねんよ』


紀子はそう言ってまた笑った。診療所の敷地に建ててある2LDKの小さな家は今は仕事の休憩位しか使われていない。良幸は香奈が大阪に帰って来た時に少しでも気が楽になるならと1人でそこに住まわせようと思ったのだ。

『そんな事。香奈に聞かずにまた自分で突っ走って。香奈が帰って来た時にまた話し合いして考えればいいです』

そう紀子は最初は優しい言葉ではあったが語尾は強めに良幸の行動を窘めた。


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