桜が咲く頃~初戀~
孤独
香奈と圭亮はおばぁちゃんにバスが無くなるから帰りなさいと言われるまで病室にいた。面会時間が終わりになって10分程で最終のバスが病院前に来る。香奈は後ろ髪を引かれながら病院を出た。

バスに乗ってから2人は殆ど口を聞かないでいたので何だか静まった冷たい空気をバスのゴトゴトと揺れる音とエンジンの唸る音、時折車体の軋む甲高い音が香奈には煩わく思え不安を掻き立てられた。

バスを降りてからも2人は夜の静けさの中の色んな音色にただ黙々と足音を響かせていた。

おばぁちゃんの家に着いた2人は家の中の鎮まり返った匂い寂しさを感じた。

『香奈ちゃん。本当に1人で大丈夫?常ちゃん所が嫌なら俺ん家泊まる?母さんも親父もいるから』

圭亮はそう言うと、さっき病院でおばぁちゃんにからかわれた事を思い出して少し笑った。

『圭亮君。大丈夫やでありがとう。私はここにいる』


そう言って背の高い圭亮の顔を見上げて香奈は泣きそうになった。

そんな顔をされると圭亮は何だか切なくなった。

『香奈ちゃんバスの中でしてた話し聞きたい?』

圭亮は香奈の肩越しに月の明かりで蒼く静かに浮かびあがる大きな桜の樹に目を向けて時間を自ら止めたかのように動かなくなった。

香奈にはその沈黙が孤独となって襲いかかるのでは無いかと思わず言葉を繋いだ。

『コトダマ?』


たった数秒ではあったその止まった静けさを破る様に我に返った圭亮は香奈を見ないみそっと話をしだした。

『俺がまだ幼稚園の頃に友達と隠れんぼして遊んでいたら。あの桜の樹を見つけたんよ。いい隠れ場所だと思って隠れていたらいつの間にか寝てしまったんよ。気が付いたら周りがオレンジ色になってた』


圭亮はそこまで言うと何か思い出したように香奈の顔を見てそして左側に唇を少し上げて優しく笑った。


『信じられない様な話しなんだけどね』
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