桜が咲く頃~初戀~
涙と一緒に出てしまう鼻水をキャラクターのプリントされた青いトレーナーの袖で何度も拭きながらなかなか止まらない涙と心細さにただ恐怖しか無かった。


「オトコダロ?ナイテハ イケナイヨ」

その声に圭亮はヒクヒクと喉を鳴らして振り向いた。

『アンタ。誰?』

圭亮は鼻水を何度も袖で拭きながら聞くと男の子は嬉しそうに答えた。

「コトダマ」
『ことだま?それがお名前なんて変な名前。アンタも隠れてたん?』

圭亮が一気に話すとコトダマは圭亮の右手を掴んで歩き出した。


小道に出る前まで来た時


「ゼンブチガウ オトコナラ ナキムシ ナオサナイト イケナイヨ」

そう言ってコトダマは圭亮の手を離しもと来た道を帰り始めた。圭亮はコトダマに向かって叫んだ。


『僕は泣き虫なんかと違う!』

その声にコトダマは振り向いてニッコリと笑うと右手を左右に何度も振り。

「マタ オイデ ケイ バイバイ」

と桜の巨木にスルスルと登って行った。すぐにコトダマは圭亮の前から見えなくなった。

幼い圭亮はまた寂しくなって今度はシクシク泣き出した。


『泣き虫じゃないもん』

そう言って圭亮は涙を鼻水と一緒に拭いて顔を見上げた。

空は完全に藤色一色に染まっていた。圭亮はひくつく喉を右手で押さえると足下を見詰めて歩き出した。







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