桜が咲く頃~初戀~
『兄さん、どうしたんね?迷子になったんね?』


その声に圭亮は顔を上げた。そこには高校生位の日に焼けて健康的に黒くなった顔にニッコリ笑うと見える白い歯が薄暗い周りに分かる青年が立っていた。

圭亮は何だかホットしたのとさっき不思議な出会いが何となく怖かったのが混ざって激しく泣き出した。

『兄さん。男は泣いたらいかんよ。俺が連れて帰っちゃるけんもうなくんやないぞ』

そう言って圭亮の前に背中を向けてしゃがんだ。

『ほれ、つかまりよ』


優しく発せられる変声期を迎えたばかりの様な乾いた声が圭亮には柔らかく聞こえ青年の背中に掴まった圭亮は揺れてるのと泣き疲れてまた眠りに落ちた。




何時間経ったのだろう。目が覚めた圭亮は何時の間にか自分の部屋の布団の中にいた。毛布を跳ねる除けると居間の襖をソロリと開けた。

百合子はテレビを観ながら笑っていたけれどその気配に振り向いた。

『圭、ご飯食べる?今日のハンバーグ何時もよりおっきいよ~』



百合子はそう言いながらよいしょと炬燵から出るとキッチンに行きフライパンに火を着けた。



『お母さん』

圭亮は叱られるのでは無いかと上目遣いで百合子を見上げたけれど百合子は何時もの様に優しく。

焼けたハンバーグを圭亮のワンプレートの仕切りの広い方に乗せた。そしてその横の仕切りの中に特別な日にしかついていないフルーツ入のポテトサラダが添えられれていた。











百合子は暗くなっても戻らない圭亮を探して回ったが一緒に遊んでいた子供達も誰も知らないと言った。

慌てて駐在所に行こうとした時1つ村離れた所に住んでいた大野大樹が圭亮を背負って歩いて来た。


その姿を見て百合子は泣きながら駆け寄り大樹の背中でスヤスヤ眠る圭亮を抱き下ろした。


百合子は何度も何度も大樹に頭を下げた。大樹は日に焼けて黒くなった顔をクシャクシャにして照れ笑い帰って行った。

泣き疲れた顔で眠る圭亮を見て百合子はもう絶対に目を離さないと心に誓った。

家に入り、圭亮を圭亮の部屋の布団に降ろすと百合子は襖を静かに閉めてからキッチンに行ってジャガイモを蒸し始めた。

圭亮の大好きなフルーツ入のポテトサラダを作るためだった。


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