桜が咲く頃~初戀~
恋の話し

香奈は湯船の中で鼻までお湯に顔を沈めて今日あった不思議な出来事を思い出していた。

『香奈は何処に行っとったんや?』


おばぁちゃんは身体をタオルでゴシゴシ擦りながら香奈に話かけた。


『バァちゃんの畑の近くの大きな桜の樹』


釜で燃えている撒きのパチパチと燃えて跳ねる音と香りが香奈は大好きだ。そんな中で何時の間にか静まった気持を湯の中で更に癒していた。

おばぁちゃんとお風呂に入るのは何年ぶりだろう。おばぁちゃんの小さく皺になった背中を眺めていると寂しい気持ちになった。



『あそこで迷ったんか?香奈ぁ、バァはあっこでなあの桜の樹の元でジィさんと恋をしたんよ。初恋じゃった』


おばぁちゃんは身体に着いた泡を湯でサッパリ流した後、香奈の隣に「うんしょ」と言って湯船に浸かった。

おばぁちゃんは湯の中で顔を何度もぬらし拭うとほんのりほっぺたが桜色になって可愛く笑った。


『バァちゃんも恋したんや』


香奈がそんなおばぁちゃんの可愛く笑った顔を見て言うと満更でも無いように。


『あぁ、恋をした』


と照れた。


『バァちゃん、聞かせて』


『えいよ』


おばぁちゃんは静かに微笑むとその顔はまるでついさっき恋をした少女の様に見えた。
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