ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
宿命の星のもとに
「あっ……」
 不意に震える指先。上手くシェ−バ−のカバ−がはめることが出来ない。まさか、自分の人生に神様がこんな悪戯をするなんて思ってもみなかった。


 小学校時代か、はたまた中学校時代か……。自分の身体に異変を感じたのは。それまでのぼくは、普通に運動神経も鋭くて、指先も器用に動いていた。そんなことは当たり前だと思っていたし、それが普通だと思っていたのだ。しかし、それがだ、ある日を境に自分の意思とは関係なく動く、別のいい方をすれば、思うように動かなくなっていたのだ。


 水頭症キアリ奇形


 数年前、そんな聞き慣れない名前を持った悪魔が、ぼくの身体を蝕んでいたのであった。


「左側の小脳が、生まれついての奇形です」

 丁寧にアイロンを掛けられたであろう清潔な白衣をまとった大学病院の先生は、MRIという最新の脳断面レントゲン写真を、目を凝らしながらそう答えた。


 張り裂けそうな空気が、ぼくの周りをいったり来たりする。大学病院の先生にとっては、何十人も診察するうちのひとりに過ぎないだろう。しかし、ぼくにとっては人生という長い道則が、平坦で単純な長距離走ではなく、困難で難解な障害物競走に姿をすっかり変えてしまった。

 そのちいさな脳の異変、キアリ奇形と呼ばれる小脳の奇形から併発したであろうと診られた水頭症であるが、精密な診断結果はそうでなく、生まれながらに持っていた症状との結果であったのは神様の想いやりだろうか。しかし、十九年に及ぶ今までのぼくの人生は一瞬に姿を変えようとしていた。
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