ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
 母から届いた荷物を、キッチンやリビングに整理していると、時計は十時をとうに回っていた。

「十時か……」

 ソファーに腰を下ろし携帯電話をとり出す。一件の未読メール。

「久留美ちゃん?」

 久留美からのメールが来たのかとこころ躍らせたが、メールの差出人はあの三上高志。

「なんだ三上か」

 ぼくは肩を落としながら、三上からのメールを開いてみた。

『どうっすか? 柏原さん。前にいってた娘とは上手くいってますか?』

 メールの文字が笑って見える。相変わらず元気なヤツだ。イイ娘がまた見つかったのだろうか。ぼくはあの三上高志が羨ましく思った。しかし、久留美と出逢えたことをぼくは後悔していない。

 厄介な男と女が出逢って恋に落ちる。男と女なんて大抵そんなものだ。この宇宙は、似たようなふたりが出逢う仕組みになっているんだと。

 ぼくは三上に返信する。

『あ~、前にいっていた通り、あの娘とは、終わったよ。残念だけど。』

 三上にメールを送って、ぼくは煙草に火を点ける。

 メンソール味が、落ち込んだぼくのこころを癒してくれる。

 一本、二本……。

 三本目に火を点けたとき、ぼくは思い出したように立ち上がった。

「そうだ……」

 ぼくは、ステレオにあの曲をセットして部屋中に満たす。ちいさな音符たちがスピーカーから飛び出してくる。
 
 久留美に出逢って、久留美にこころ奪われ、久留美の現状を知って、恋に落ちた一週間。勝手にこの曲を久留美のテーマソングにして、ぼくはよく聴いていた。

“stray・cat”

「今夜だけは久留美のことを考えよう、最後の夜だから……」

 ぼくはポツリとつぶやいて、その曲をバックにして最後のメール文を考える。
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